Weekly Column

Hero's Eye

二つの勝負に勝った男 ~K-1 WORLD GP@大阪~

Hero
2006.10.12
 昨年の大阪ドームから、今年は大阪城ホールへとスケールダウンした形となったK-1ワールドGP開幕戦。キャパシティから考えると満員となってしかるべき会場ではあるのだが、試合開始時間が迫っても8割程度の入り。今回、会場入りしてすぐに感じたことがある。メジャーイベントの会場に必ず満ち溢れているものが何か足りない。しばらく考えて分かったのは、観客から試合前の緊張や期待が感じられないこと。オープニングの選手紹介が始まっても、観客のボルテージがなかなか上がらない。出場選手が一人ずつ入場してきても歓声、拍手はまばら。観客の熱は必ず選手に伝わるものである。会場の低いテンションがさらに試合内容を低下させるのか、それとも、すばらしい試合を繰り広げ、落ち込んだ会場のテンションを上昇させるのか。出場選手にとっては対戦相手だけではなく、観客までもが攻略すべき強力なライバルとなった。
 しかし、そこはさすがにK-1である。第一試合から徐々に高まった観客のボルテージは、メインカードで最高潮になる。それを演出したのは残念ながら2名の日本人ファイターではなく、韓国人とフランス人の両ファイターであった。
 ジェロム・レ・バンナはなんと試合当日の来日。コンディションに疑問符がつく状況であったにもかかわらず、冷静な闘いを展開した。試合開始序盤はローキックから攻め手を見出し、スキを見て懐へ飛び込んでのボディーブロー。しかし、このボディーがまったく利かない。試合後のインタビューで彼はこう明かした。  「ローを多用したのは、それしか打つ手がなかったからさ。彼は岩のような男だ。体のすべてが固かった。自分の足のダメージも大きいよ。2年もすれば彼をKOできるやつはいなくなるだろう」  ローキックは作戦ではなく、そうせざるを得なかったわけだ。ただそんな中でも冷静に手数を増やし、前に出る気持ちを絶やさなかったことが大巨人を追い詰めていくことになった。
 チェ・ホンマンは、パンチ対策にポイントをおいていたことを試合後のインタビューで明かした。飛び込んできた相手にヒザを打ち込むというのがこの試合のプランだったようだが、パンチを打ってこない相手に対して戦略をアジャストすることができなかったのが敗因だろう。ローを打って距離をとってくる相手に対して、自らの体格を生かしていかに圧力をかけていくか。そこに頭を切り替えることができていれば、アジア勢全滅という結果にはならなかったのかもしれない。しかし、あれだけのローをもらいながら立ち続けたチェ・ホンマンの強さは恐るべきものだ。強豪と対戦を重ね、さらなる経験を積んでいけば、ジェロムの言う通り彼を倒せる者は誰もいなくなるかもしれない。何よりも彼の最大の武器は若さなのだ。彼には時間がある。
 大会のMVPは、文句なしでジェロム・レ・バンナ。韓国の大巨人だけでなく、温度の低い観客との勝負にも勝ってみせた。会場を一番熱狂させた、彼の前に出る気持ちの強さに敬意を表したい。
 さて、この大会の二日後には決勝ラウンドの抽選が行われた。ジェロムは大会翌日にはフランスへ帰国(試合当日入国で、翌日出国!)の途に着いていたが、国際電話から彼が指名した相手はなんと昨年度のGP覇者であるセーム・シュルト。開幕戦でも磐石の強さを見せつけていたオランダの大巨人を相手にすることになったが、一番強い相手を倒したいというのが彼の意向だという。12月の決勝ラウンド、ホーストの引退や、今回躍進したゴールデングローリー勢、はたまたリザーバーは誰になるのか(武蔵、ホンマン、セフォー、バタハリなどが候補)などなど、注目ポイントはいくつもあるが、ジェロムの男気に注目してみるのもいいかもしれない。
※今回もstandの記者として取材させて頂きました。
 standにも同内容のコラムを掲載しております。
 試合結果は格信犯データベースにて。
 大会の写真はGallery/PhotoAlbum Vol.1+Vol.2にて。
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