第1試合
勝村周一朗×アレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ
闘議(とうぎ)ミドル級T開幕戦観戦記 ~070716_HERO'S~ |
u-spirit 2007.07.22 |
台風一過で久々の晴天。3連休最後の休日を有意義に過ごそうとする車で、港北地区は大渋滞。裏道を抜けながら、なんとか50分前に到着。会場入りの時、偶然、セコンドから引き上げてくる田村潔司と遭遇。メインゲートの装飾はベガスをイメージしているのか?コンサート会場の様で格闘技イベントっぽくない気が…。スポンサーがパチンコメーカーだけに仕方ないか。着席時にネットで参戦が噂される”ダッチ・サイクロン”アリスター・オーフレイムを西アリーナ席で発見。90%くらいの客入りで、まずまず。実券販売席はほぼ埋まっているが、招待席エリアに空席が目立つ。10分押しで開会。
ペケーニョは、所に敗れたものの修斗ライト級王座を5年以上も保持し続けた実力は伊達ではない。勝村選手との対戦は、高度な技術の”極め合い”と予測を裏切り、打撃の応酬となり、真っ直ぐ後退する。勝村のチンにペケーニョフックが炸裂してKO葬。勝村選手はZSTルールの方が向いている。会場へ向かう途中、ペケーニョ兄弟と親交の深い”入谷久美”さんを見かけた。さぞ、喜ばれている事だろう。
第2試合
アンドレ・ジダ×ウマハノフ・アルトゥール
アンドレ・ジダ×ウマハノフ・アルトゥール
ノーガードスタイルで、不気味なウマハノフはジダの早いジャブを見切る。ジダも戦法を変更し、ローキックから組み立て、踏み込んでフックから連打を繰り返し、クリーンヒットを数発あてると、堪らず、しゃがみ込んだウマハノフを追撃してKO。桜庭が認めた男って触れ込みは…如何な物か?
第3試合
柴田勝頼×ハレック・グレイシー
柴田勝頼×ハレック・グレイシー
プロレスラー期待の星、柴田の総合第二幕だったが、キッチリ、グレイシーマジックの餌食となり腕を取られ、無念のタップアウト。若さ故の”練習ぶっ飛び、脳天空白状態”が端で観ていて分かった。船木との練習で培った10分の1も出せなかった事は本人が一番、悔いているだろう。少しでもクレイバーさを持てれば…。関係ないが、この試合”UZI”がリングアナとして登場していた。
第4試合
宮田和幸×ビトー・“シャオリン”・ヒベイル
宮田和幸×ビトー・“シャオリン”・ヒベイル
宮田は頑張った。勇気と戦術で試合をコントロールし有効な打撃を随所に繰り出していた。しかし、ヒベイルはその上をいく化け物だった。何と冷静で、何と俊敏な動きだろう。ヒベイルに転がされたら”敗北”が決定してしまうのか?パスと同時に肩固めって…早すぎるよ。どんな練習したら、あんな連動した動きが出来るんだ。
第5試合
ブラックマンバ×所英男
ブラックマンバ×所英男
まぁ、所の人気は凄い。しかし、ブラック・マンバことカルター・ギルとでは、本来の階級が違う気がする。終始、バックを取られて上手に転がせない所は、マウントパンチの餌食となり、レフリーに止められる。昨今の格闘技において多用される”リベンジ”の虚を垣間見た。誰も得しない試合だった。
ここで20分の休憩。
そして、休憩明け前田日明SVがリングイン。船木誠勝が呼び込まれて”現役復帰”を宣言。しかし、若年層のTV先入型ファンが集う会場の反応はイマイチ。これがPRIDE埼玉アリーナなら爆発している。船木が自己紹介で「ヒクソンに惜しくも負けてしまい」と説明したコメントに笑いが起きたのが救い。15才でデビューした天才が7年の沈黙を破り復帰する。感慨深いが、船木はデビューが早かった分だけ、年齢的には田村や桜庭と同世代。まだ、充分できるだろう。
そして、休憩明け前田日明SVがリングイン。船木誠勝が呼び込まれて”現役復帰”を宣言。しかし、若年層のTV先入型ファンが集う会場の反応はイマイチ。これがPRIDE埼玉アリーナなら爆発している。船木が自己紹介で「ヒクソンに惜しくも負けてしまい」と説明したコメントに笑いが起きたのが救い。15才でデビューした天才が7年の沈黙を破り復帰する。感慨深いが、船木はデビューが早かった分だけ、年齢的には田村や桜庭と同世代。まだ、充分できるだろう。
第6試合
宇野薫×永田克彦
宇野薫×永田克彦
宇野薫はトータルファイターでバランスが良い。しかし、試合中、相手と流れに合わせる傾向があり積極的とは言い難い試合になる事が多々ある。勿論、今回もポイントは薫王子が取っていた。が、本当にこれで良いのだろうか?過去のルミナ戦を知る者から観れば、物足りないとしか言えない。あの”ルミナ越え”の輝きを取り戻して欲しい。10代と思しき乙女たちの”カオルくん〜”って声援に”32歳ですから”と突っ込みたくなった。
第7試合
メルヴィン・マヌーフ×ベルナール・アッカ
メルヴィン・マヌーフ×ベルナール・アッカ
スタンドスキルの差が余りにありすぎて、気の毒だった。これは無理な話だ。しかし、アッカは超人マヌーフの強打を喰らっても失神せず、戦意も失っていなかった。一言、立派である。身体能力は秀でているので、片手間でなく本気で練習し、コンビネーションやガードを覚えれば、ソコソコ闘えると思う。特に”アッカ蹴り”は、有効な武器だと思う。
第8試合
田村潔司×金泰泳
田村潔司×金泰泳
何も言葉がない。歴代ワースト試合かも。田村のあのバテ方は、何だろう。田村は負けてはいないが、勝ってもいない。凌いだ者と攻めあぐねた者の試合。ただ、それだけ。プロにあるまじき試合。これがメインカードでは、泣けてくる。会わせる顔もなく日明兄さんの前も素通り。「仲間内のスパーリングだけでは試合の準備としては足りない部分があるしね。」との日明兄さんの言葉が胸に響く。田村が選手として下降線を急激に転がっている事に焦りと悲哀を感じた。そして、また”幻想”との揶揄に、耐えねばならぬ日々が来る。
<総括>
HERO'Sの会場は、TVから取り込んだ若年層(女性)ファンが多く、黄色い声援が彼方此方で聞こえていた。しかし、若干、お行儀が悪い気がした。試合中に席を立ち、頻繁に出入りする。目的の選手以外の試合は、メール、おしゃべり、おやつとまさに教室の様だ。興行戦略として、彼女たちを取り込むには成功したが、本当に”惹きつける試合がない”という事実の裏返しでもある。PRIDEが頓挫したままの今日、窮地にある日本の総合格闘技を背負って立つ!との意気込みに異論はないが、肝心の選手選考とマッチメイクをもっとシビアに考えて欲しい。人気獲得の為に、エントリー選手を日本人で固めていては、不公平感がいつでも払拭できない。ベルトの価値は積み重ねた試合の濃度で決定する。やはり、非力なれど日本人という理由で、いつまでも永田や宮田のポテンシャルの高さだけを信じて待つにも限界がある。噂されるPRIDE系の新たな強豪選手を連れて来られるか?が今後のHERO'S、如いては日本の総合格闘技発展をも握る重要なカギとなる気がする。
最後に称えたい事柄を。今大会のレフリングは最高に素晴らしかった。特に試合を止めるストップのタイミングが、非常に適切で安心して観戦できた。この競技性向上を踏まえた改善は賞賛に値する。今後も手本となる様に、この水準を維持して欲しい。それと、解説に中井祐樹氏を登用したのも競技普及には非常に良い選択だったと思う。
HERO'Sの会場は、TVから取り込んだ若年層(女性)ファンが多く、黄色い声援が彼方此方で聞こえていた。しかし、若干、お行儀が悪い気がした。試合中に席を立ち、頻繁に出入りする。目的の選手以外の試合は、メール、おしゃべり、おやつとまさに教室の様だ。興行戦略として、彼女たちを取り込むには成功したが、本当に”惹きつける試合がない”という事実の裏返しでもある。PRIDEが頓挫したままの今日、窮地にある日本の総合格闘技を背負って立つ!との意気込みに異論はないが、肝心の選手選考とマッチメイクをもっとシビアに考えて欲しい。人気獲得の為に、エントリー選手を日本人で固めていては、不公平感がいつでも払拭できない。ベルトの価値は積み重ねた試合の濃度で決定する。やはり、非力なれど日本人という理由で、いつまでも永田や宮田のポテンシャルの高さだけを信じて待つにも限界がある。噂されるPRIDE系の新たな強豪選手を連れて来られるか?が今後のHERO'S、如いては日本の総合格闘技発展をも握る重要なカギとなる気がする。
最後に称えたい事柄を。今大会のレフリングは最高に素晴らしかった。特に試合を止めるストップのタイミングが、非常に適切で安心して観戦できた。この競技性向上を踏まえた改善は賞賛に値する。今後も手本となる様に、この水準を維持して欲しい。それと、解説に中井祐樹氏を登用したのも競技普及には非常に良い選択だったと思う。
Hero's Eye代表選考に疑問符 ~070429_全日本柔道選手権~ |
Hero 2007.05.31 |
Heroのブログにて掲載されていた全日本柔道選手権についての寸評を、せっかくなので格信犯ウェブの方に転載いたします。
もう1ヶ月経過してしまいましたが、4月の終わりの全日本柔道選手権について。
実は、武道館まで行くつもりでいたんですが、事情があってTV観戦。
世間の注目は、井上康生選手の復活に集中していたような気がしていましたが、ボクは昨年のチャンピオンである石井慧選手がどんな戦いを見せるのかというものでした。しかも、今回は世界選手権重量クラスの最終代表選考会も兼ねていましたので、非常に興味深いものとなりました。
結果から言うと、石井選手は準決勝で井上選手を破り、2年連続で決勝に進出。この試合では石井選手の取り口には賛否両論があるようですね。組まれたら先に仕掛けないと、井上選手の内股が飛んでくるわけですから、現実的な作戦でしょうね。むしろ、万全の井上選手なら石井選手よりも先に動いていたのではないでしょうか。(この時点で、井上選手の世界選手権は消えたと思っていました、ボクは)
決勝は昨年と同じ相手であるアテネオリンピックの金メダリスト鈴木桂治選手に残念ながら判定負けとなりました。
決勝は昨年と同じ相手であるアテネオリンピックの金メダリスト鈴木桂治選手に残念ながら判定負けとなりました。
この戦いぶりいかがでしょうか。いろんな意見があるようですが、ボクは石井選手は本当によくやったと思います。今回の大会は、故障明けのためぶっつけで望んだ大会です。この全日本選手権は、どんな世界大会よりも勝ち抜くのがむずかしいのではとも言われている大会です。それでもディフェンディングチャンピオンとしての重圧に耐え、学生ながら2年連続の決勝進出は、ある意味快挙じゃないですかね。
ちなみに、彼は鈴木選手と同じ100キロ級の選手です。そのため、世界選手権の100キロ級代表は鈴木選手となりました。これは当然、納得。しかし、100キロ超級、無差別級のいずれかの代表となるのが井上選手ということも決まりました。しかもその補欠が今回のベスト8で敗退した棟田選手、高井選手。いずれも100キロ超級の選手ではありますが、どうなんでしょう、これ。同じようなことが、女子にもありましたしね。(全日本体重別選手権48キロ級で準優勝に終わった谷亮子選手が、世界選手権代表に選出)
確かに、これまでの経験や実績を考慮すればで井上選手や棟田選手を代表にするのはベターな選択かもしれません。
しかし、彼らは北京が最後のオリンピックとなるでしょう。それに対して石井選手はまだ20歳です。いまから国際経験を積ませることが、必ず将来の活躍につながると思うのですがね。鈴木選手は、2003年の全日本選手権で当時同じ100キロ級の選手であった井上選手に敗れましたが、同年の世界選手権無差別級代表となりました。そこで彼は経験を積み(大会では優勝)、オリンピック金メダリストにもなりました。その後の活躍は周知の通りです。
北京以降の日本柔道を牽引していくであろう石井選手。彼に必要なのは国際経験だと思うんです。昨年の全日本選手権で優勝した後に出場したアジア選手権では準優勝に終わってしまいました。経験が乏しいのですから、仕方なかったのでしょう。それゆえ、国内で結果を残しているにもかかわらず、世界選手権レベルでの試合ができないのはいかがなものかと。アジア大会やフランス国際では得られない経験が世界選手権にはあると思うんです。
目先の結果にだけこだわっているという訳ではないのでしょうが、北京オリンピック以降の日本柔道が心配です。
総合格闘技向上委員会ver.24.0 目標ではなく使命 ~070429_全日本柔道選手権~ |
marc_nas 2007.05.31 |
marc_nasのブログににて掲載されていた全日本柔道選手権についての寸評を、せっかくなので格信犯ウェブの方に転載いたします。
一度目は快挙とモテはやされ、二度目はそれが当たり前が如く期待される。どうも、marc_nasです。
全日本柔道選手権大会をTV観戦。
全日本柔道選手権大会をTV観戦。
格信犯編集部の柔道担当:Heroさんに電話すると
「東京にまで観に行こうと思ってたけど、行けなかったッス」
と。そこまでの熱!と少々驚きながらも、いろいろ質問する。
「東京にまで観に行こうと思ってたけど、行けなかったッス」
と。そこまでの熱!と少々驚きながらも、いろいろ質問する。
普段PRIDEやK-1ばかりで、柔道は一度しか生観戦したことがないけれど、今回の全日本選手権無差別級は、そんな僕でも分かる選手ばかりで感動ラッシュ。様々なドラマに心打たれる。
印象に残ったのは、初めて観た庄司武男選手の斜に構える戦法。
今成正和選手を思い出した。
今成正和選手を思い出した。
ショックだったのは、準決勝で井上康生選手が石井慧選手に敗れたこと。(判定2-1)
石井選手のとった戦法に対して、解説の篠原信一先生がズルイ的な発言をしており、賛否両論あるだろうが、敗れたという結果だけは後世に残る。
石井選手のとった戦法に対して、解説の篠原信一先生がズルイ的な発言をしており、賛否両論あるだろうが、敗れたという結果だけは後世に残る。
あの戦い方を審判が優勢と見るのならば、その判定基準はこれからの世界基準になるのだろうか。
それならば、康生選手が世界で生き残るためには、戦い方を変えなければいけないのだろうか。
複雑な感情がもつれ合い、いろいろと考えさせられる。
それならば、康生選手が世界で生き残るためには、戦い方を変えなければいけないのだろうか。
複雑な感情がもつれ合い、いろいろと考えさせられる。
去年、史上最年少で優勝した石井選手は、前回は快挙と騒がれたが、今回は連覇のプレッシャーから"負けられない"という気持ちが強く、楽しめなかったのか。
一方、準決勝を見事な一本勝ちで決勝戦に駒を進めた鈴木桂治選手は、大きく見えた。
一方、準決勝を見事な一本勝ちで決勝戦に駒を進めた鈴木桂治選手は、大きく見えた。
前回大会と同じ顔合わせになった決勝の軍配は鈴木選手に。
終始、無表情だった石井選手が号泣する姿は印象的だった。
終始、無表情だった石井選手が号泣する姿は印象的だった。
最も感銘を受けたのは、優勝した鈴木選手が優勝インタビューで発した言葉。
インタビュアー「全日本を制しました。今度の世界大会の目標は優勝ですか?」
鈴木「優勝は目標というか、使命です」
インタビュアー「全日本を制しました。今度の世界大会の目標は優勝ですか?」
鈴木「優勝は目標というか、使命です」
人は夢をいつしか、リアルな目標に置き換える。
その目標が至極当然となった今、それは使命へと変わるのか。
その目標が至極当然となった今、それは使命へと変わるのか。
闘議(とうぎ)格闘フォークソング ~070408_PRIDE.34~ |
u-spirit 2007.05.09 |
格信犯編集部東京支部:u-spiritさんのブログ: U魂(ウコン)でのコラムを加筆・修正ののち、転載させていただきました。皆様からの寄稿もお待ちしております。投稿はContact Us からお願い致します。
現体制の最後のPRIDE、クライマックスは休憩明けに訪れた。榊原代表がマイクを取り語りだす。「実現できなかった”そんなカード”…」
”SPEED2”のテーマでマスク姿の男がセリ出しから現れた。涙を拭いながら歩を進めリングへ向う”裏切りの英雄”を皆が凝視した。徐々に近づいて来る男が”リアル桜庭和志”だと確信すると、歓喜から絶叫へと会場のボルテージは一気に爆発した。前夜、「とんでもない事が…」との連絡を受け、半信半疑まま会場へ出向いていた僕自身も、起きるはずのない奇跡に身震いが止まらなかった。
会場の興奮が覚めやらぬ中、更にセカンド・インパクトが勃発する。”FLAME OF MIND”が鳴り響き、今度は逆側から田村潔司が”何か”を噛み締める様に、沈痛な面持ちで桜庭の待つリングへと向ってくる。正にドリームステージ・エンターテーメント。榊原代表を挟んで、井出達こそ普段着だったが桜庭和志と田村潔司が遂にリング上で交わった。この瞬間を生涯忘れまいと、涙で霞む映像を必死に脳裏へと格納する。それは限りなく”幻想”に近い”現実”であった。
桜庭曰く「このリングでもう一度、試合がしたい」
田村曰く「桜庭と僕が夢の架け橋になれれば」
田村曰く「桜庭と僕が夢の架け橋になれれば」
このセンチメンタルな光景を堪能しているとムードを遮る野次が飛んだ。
「今さら、どうでもいいよ!帰れよ!」
「今さら、どうでもいいよ!帰れよ!」
試合に勝てない、桜庭和志。
試合をしない、田村潔司。
試合をしない、田村潔司。
野次る彼らはMMAが確立された現世代の人、昨今、不甲斐のない成績である”老兵”二人が「何を今さら…」との意見も分かる。彼らは”強者が全て”という価値観で試合を観せられてきた。皮肉にも、その尺度を観衆に定植させたのは、刺激的なGP興行を連発したDSEであり、他ならぬ榊原代表自身でもある。格闘ジャンキーな彼らに対し、最後の最後に”格闘ロマン”を押し付けても理解はされない。事実上、UFCの軍門に下った今、新オーナーや米国ファンに対し、PRIDEは”世界最強”の称号を確立させるベクトルで運営すべき時に、グローバルに考えれば”不要”なエッセンスと言われても仕方ない。
本来なら、今回も出場する気で来日し、リングサイドで日本人の”自己満足”を見守っていた最大貢献者のシウバと、その絶対王者を沈めたヘンダーソンを絡めたチャンピオンシップの提案する方が、米国の関係者も米国ファンも納得したかもしれない。しかし、PRIDEはMADE IN JAPAN。日本人が日本人の”大和魂”を揺さぶる代替えのない最高の試合である"桜庭vs.田村"の必要性を榊原代表は「PRIDEの全てが凝縮された試合」と表現した。
その意を酌んで少し補足説明するなら、桜庭と田村の対峙は音楽で言うと”フォークソング”だと思って欲しい。それは何故か?誰もが感じる人生の悲哀や魂の叫びをテーマに、横文字を含まない純粋な日本語で綴られた歌詞、無理のないテンポの切ないメロディー、その全てが日本人の心に沁みる”純国産歌”であり、60年代の若者たちの象徴だった。同じく日本に誕生した純国産の総合格闘技である”U.W.F.”も80〜90年代の僕たち世代の格闘バイブルと呼べる。当時、”日本人最強”という鮮烈なプロパガンダに若者はアジテーションされ、”純国産格闘技”を武器に大人、世間、世界に立ち向かう集団に熱狂し、勝敗とは別の次元で多くのファンは共鳴していた。そこに生きた若者は、昨今、多く見受けられる予定調和の”事勿れ主義”や苦手逃避の姿勢ではなく、仲間内と言えど確執や孤立を一切、恐れずにぶつかり、結果として傷付いても、挫折しても常に這い上がっていく無骨な”生き様”をリングで誇示してきた。
新世紀の若者から見れば”フォーク”も”U.W.F.”も時代遅れで”ダサい”ジャンルかもしれない。しかし、どんなに時代が変貌しようとも、名曲として数多くのフォークソングが愛され歌い継がれている事実と同様に、今日の総合格闘技を形成する礎となった”U.W.F.”にも多くのファンが今なお、敬意を持っているのも事実。PRIDE世代はヒストリーやプロセスを事後資料で聞き入れ、「所詮はプロレス」と揶揄しているが、例えば、今の若者が”HipHop”のリリックに何らかのバイブスを感じる理屈と同一なんだと理解して欲しい。仮に自分達のリスペクトしている国産HipHopやそのアーティストに対して、所詮、「黒人の真似事だ」と否定されれば気分を害するだろう。いつの時代に措いても若者の”魂”を揺さぶり人生の不安と闘う為のバイブルは必ず存在する。そして、その象徴は本物であればある程、時を経て思い出と同じく色褪せても忘れる事はない。
周知の事実である桜庭の”田村嫌い”は一時、相当に根深いものであった。田村が初参戦したPRIDE.19のシウバ戦の際、桜庭は会場にさえ来なかった。高田は解説を拒否して離席した。両者ともUインター時代の”裏切り者”に五年の歳月では刑期満了と見なさなかった。その後、高田は自身の引退試合を経て田村と和解したが、桜庭だけが再三の”年末オファー”を断る田村に、嫌悪感を露に「理解できない」と吐き捨てていた。その時、田村は「桜庭に伝えたい事は、沢山あるが引退した時に話そうと思う」と述べ、互いの現役中に理解し合える事は不可能だと感じ、半ば諦めていた。
しかし、因果応報。今度は桜庭が”出戻り”という立場となった。そんな桜庭に田村は開口一番で「サクの思いを図って欲しい」と観客に告げ、リングを降りる際に桜庭の耳元で「がんばろうな」と囁き肩を抱いて”勇気”を称え、桜庭は田村の言葉に涙した。対照的に師匠である高田からは、露骨に怪訝な顔で握手され、素気ない態度をとられた。己の信念を曲げずに行動した結果、周囲との軋轢が生じてしまい、孤立し逆境に追い詰められ、孤独感を身をもって経験した桜庭は、田村の味わってきた”苦しみ”を知り、初めて互いを理解した瞬間だった気がする。
これまで非常に長く悲しい二人の道程ではあったが、田村が頑なに桜庭戦を拒絶してきた理由が、まるでこの日が来ることを予知していたかの様にも思えた。もう、多くの言葉は要らない。人間て、弱くて脆いが、強くも優しくもある。それを体現してきた二人の男の生き様を見届けよう。知らない世代であっても、何かを感じとれるはずだ。そんな二人の対戦が実現した時は、泉谷しげるの名曲が頭の中で流れてくるだろう。
「春夏秋冬」
作詞/作曲:泉谷しげる
季節のない街に生まれ 風のない丘に育ち
夢のない家を出て 愛のない人に逢う
人のためによかれと思い 西から東へかけずりまわる
やっと見つけたやさしさは いともたやすくしなびた
春をながめる余裕もなく 夏をのりきる力もなく
秋の枯葉に身をつつみ 冬に骨身をさらけ出す
今日ですべてが終わるさ
今日ですべてが変わる
今日ですべてがむくわれる
今日ですべてが始まるさ
作詞/作曲:泉谷しげる
季節のない街に生まれ 風のない丘に育ち
夢のない家を出て 愛のない人に逢う
人のためによかれと思い 西から東へかけずりまわる
やっと見つけたやさしさは いともたやすくしなびた
春をながめる余裕もなく 夏をのりきる力もなく
秋の枯葉に身をつつみ 冬に骨身をさらけ出す
今日ですべてが終わるさ
今日ですべてが変わる
今日ですべてがむくわれる
今日ですべてが始まるさ
Hero's EyePRIDE.33 “THE SECOND COMING”大会寸評 |
Hero 2007.02.28 |
今回も高田統括本部長のヘンテコJapanese Englishで幕を開けた、PRIDEラスベガス大会。前回大会に比べて、非常に中身の濃いものとなった。各試合の寸評は以下に。
<第1試合>
○ヨアキム・ハンセン VS ジェイソン・アイルランド●
序盤は、アイルランドがローから攻込む場面も見られたが、トータルバランスに優れるヨアキムが試合を終始支配する。粘りのディフェンスを見せたアイルランドであったが、最後はスタミナ切れでサブミッションを許してしまった。ヨアキムは強引なパウンドが久しく見られていないのが気になる。
<第2試合>
●三崎和雄 VS フランク・トリッグ○
フランクのグランドコントロールが優れており、テイクダウンを許すと三崎はなす術がなかった。ウェイト差がありすぎるような気もしたが、レベルの高いグランドテクニックやあくまでもテイクダウンにこだわったフランクの作戦勝ちか。
<第3試合>
●トラビス・ビュー VS ジェームス・リー○
交通事故的なフトントネック。もう少しトラビスの動きを見てみたかったが。
<第4試合>
●アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラ VS ソクジュ○
この試合、どう見ればいいのか。第3試合と同様、まさに出会い頭の交通事故という気もしないでもないが、ホジェリオをKOで倒すというのは...。計り知れないポテンシャルを持っているのかも知れない。どうであれ、次の試合が真の評価を決めるところか。対するホジェリオは今年中のミドル級タイトル挑戦というプランを見直す必要に迫られた。
<第5試合>
○桜井“マッハ”速人 VS マック・ダンジグ●
一発一発の重みが伝わってくる戦いであったが、どうにも実力差がありすぎた。マッハは途中から余裕を感じ出したのか、カウンター狙いがミエミエに。それを決めてしまうのはさすがだが、相手が弱すぎた。
<第6試合>
○セルゲイ・ハリトーノフ VS マイク・ルソー●
ハリトーノフは5ヶ月ぶりのPRIDEリング。以前のような殺気が感じられない。試合はしたからの十字でハリトーノフの勝利となったが、直後にルソーはレフェリーにクレーム。ただ、誰の目から見てもタップしており、あれはまずい。観客からは結果に対してブーイングが出ていたが、ファンの目を成長させるためにも、あのような態度は感心しない。
<第7試合>
○マウリシオ・ショーグン VS アリスター・オーフレイム●
明らかにコンディションに問題を抱えているであろうショーグンであったが、一発のパウンドで決めてしまった。ショーグンのコンディション不良という最大のチャンスを活かせなかったアリスターと、一発の小さなチャンスをものにしたショーグンの差か。ただ、この差は小さいようで非常に大きい。
<第8試合>
●五味隆典 VS ニック・ディアス○
自分のスタイルを貫けなかった五味。アメリカというステージで自分をアピールするという気持ちに完全に正気を奪われたか。打合いでKO。それが可能な相手と踏んでいたのであろうが、リーチの長さまでは計れていなかったようだ。いつもならもらわない距離でパンチをもらってしまう。蓄積されたダメージは軌道修正へのプロセスすら奪い去った。アメリカ人にとっては最高の試合だってであろう。いちばん頭を抱えたのはDSEか。
<第9試合>
●ヴァンダレイ・シウバ VS ダン・ヘンダーソン○
とうとうヴァンダレイのミドル級絶対君主制が崩壊した。ウェルター級の選手にパンチでKOされるという、信じがたい光景がアメリカで繰り広げられたのだ。ホームでの試合ということで万全の体制で臨むことができたとは言え、ダンのアスリートとしてのポテンシャルにはまさに脱帽である。さて、DSEは今後ヴァンダレイの扱いをどうしていくのか。DSEはこのPRIDE最大の功労者に対して、最高の舞台を整えるべきだ。彼がこのまま落ちていくのは見たくない。
<追記>
榊原社長によるとヴァンダレイはなんと前日まで40度の発熱があったそうです。コンディション不良でタイトルを逃すというのも実力のうちのような気もしますが、もう一度チャンスを与えるべきなのかも知れないですね。
大会総括
今回のラスベガス大会。二人のチャンピオンがアメリカ人に敗れるという、ある意味アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための大会となった。この結果をDSEはどう捕らえていくのか。アメリカ人の心を前回大会よりもつかんだことは間違いない。しかし、PRIDEの母国は日本であり、一番貢献している日本以外の国はブラジルなのだ。アメリカのマーケットという大きな獲物をつかむ取る可能性は非常に高くなったが、それと引き換えにもっと大事なものを失うことのないようにしてもらいたい。
○ヨアキム・ハンセン VS ジェイソン・アイルランド●
序盤は、アイルランドがローから攻込む場面も見られたが、トータルバランスに優れるヨアキムが試合を終始支配する。粘りのディフェンスを見せたアイルランドであったが、最後はスタミナ切れでサブミッションを許してしまった。ヨアキムは強引なパウンドが久しく見られていないのが気になる。
<第2試合>
●三崎和雄 VS フランク・トリッグ○
フランクのグランドコントロールが優れており、テイクダウンを許すと三崎はなす術がなかった。ウェイト差がありすぎるような気もしたが、レベルの高いグランドテクニックやあくまでもテイクダウンにこだわったフランクの作戦勝ちか。
<第3試合>
●トラビス・ビュー VS ジェームス・リー○
交通事故的なフトントネック。もう少しトラビスの動きを見てみたかったが。
<第4試合>
●アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラ VS ソクジュ○
この試合、どう見ればいいのか。第3試合と同様、まさに出会い頭の交通事故という気もしないでもないが、ホジェリオをKOで倒すというのは...。計り知れないポテンシャルを持っているのかも知れない。どうであれ、次の試合が真の評価を決めるところか。対するホジェリオは今年中のミドル級タイトル挑戦というプランを見直す必要に迫られた。
<第5試合>
○桜井“マッハ”速人 VS マック・ダンジグ●
一発一発の重みが伝わってくる戦いであったが、どうにも実力差がありすぎた。マッハは途中から余裕を感じ出したのか、カウンター狙いがミエミエに。それを決めてしまうのはさすがだが、相手が弱すぎた。
<第6試合>
○セルゲイ・ハリトーノフ VS マイク・ルソー●
ハリトーノフは5ヶ月ぶりのPRIDEリング。以前のような殺気が感じられない。試合はしたからの十字でハリトーノフの勝利となったが、直後にルソーはレフェリーにクレーム。ただ、誰の目から見てもタップしており、あれはまずい。観客からは結果に対してブーイングが出ていたが、ファンの目を成長させるためにも、あのような態度は感心しない。
<第7試合>
○マウリシオ・ショーグン VS アリスター・オーフレイム●
明らかにコンディションに問題を抱えているであろうショーグンであったが、一発のパウンドで決めてしまった。ショーグンのコンディション不良という最大のチャンスを活かせなかったアリスターと、一発の小さなチャンスをものにしたショーグンの差か。ただ、この差は小さいようで非常に大きい。
<第8試合>
●五味隆典 VS ニック・ディアス○
自分のスタイルを貫けなかった五味。アメリカというステージで自分をアピールするという気持ちに完全に正気を奪われたか。打合いでKO。それが可能な相手と踏んでいたのであろうが、リーチの長さまでは計れていなかったようだ。いつもならもらわない距離でパンチをもらってしまう。蓄積されたダメージは軌道修正へのプロセスすら奪い去った。アメリカ人にとっては最高の試合だってであろう。いちばん頭を抱えたのはDSEか。
<第9試合>
●ヴァンダレイ・シウバ VS ダン・ヘンダーソン○
とうとうヴァンダレイのミドル級絶対君主制が崩壊した。ウェルター級の選手にパンチでKOされるという、信じがたい光景がアメリカで繰り広げられたのだ。ホームでの試合ということで万全の体制で臨むことができたとは言え、ダンのアスリートとしてのポテンシャルにはまさに脱帽である。さて、DSEは今後ヴァンダレイの扱いをどうしていくのか。DSEはこのPRIDE最大の功労者に対して、最高の舞台を整えるべきだ。彼がこのまま落ちていくのは見たくない。
<追記>
榊原社長によるとヴァンダレイはなんと前日まで40度の発熱があったそうです。コンディション不良でタイトルを逃すというのも実力のうちのような気もしますが、もう一度チャンスを与えるべきなのかも知れないですね。
大会総括
今回のラスベガス大会。二人のチャンピオンがアメリカ人に敗れるという、ある意味アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための大会となった。この結果をDSEはどう捕らえていくのか。アメリカ人の心を前回大会よりもつかんだことは間違いない。しかし、PRIDEの母国は日本であり、一番貢献している日本以外の国はブラジルなのだ。アメリカのマーケットという大きな獲物をつかむ取る可能性は非常に高くなったが、それと引き換えにもっと大事なものを失うことのないようにしてもらいたい。